知人の30歳女性から相談を受けました。
「私の友人がうつ病になりかけているんです。いったいどうしたらいいんでしょう?」
彼女は僕を気遣って少しだけ笑みを浮かべましたが、声の奥がほんのり震えていました。
彼女の眼差しは、どうしたらいいのか分からない不安と、こんなことを相談してもいいのだろうかという戸惑いと、なんとか友人を助けたいという愛情が入り混じり、潤んだ向こう側で揺れていました。
その友人は職場で上司から毎日のように怒鳴られていて、どんどん心が疲れてしまったようでした。
僕は相談してくれた彼女に次のようなお話をしました。
人生は苦しみで満ちています。
幸せそうな人でも人生においては皆同じだけの苦しみを抱えているものです。
お金がなくて苦しんでいる人
お金があっても、人間関係で苦しんでいる人
お金があって人間関係が良好でも、病気で苦しんでいる人
お金があって人間関係が良好で健康でも、身内に不幸があって苦しんでいる人
お金があって人間関係が良好で健康で身内に不幸がなくても、過去の後悔と将来の不安で苦しんでいる人
生きている限り、苦しみは必ずやってきます。
世の中には、
「悪いことよりも良いことに目を向けましょう」「コップの中に水が半分しか入っていないと思うのではなく、水が半分も入っていると思いましょう」「無いことを嘆くより、有ることに感謝しましょう」
といった、ポジティブ思考を勧める人が少なくありません。
しかし絶望のど真ん中で苦しんでいる人には実は効果ありません。心が疲れ切ってしまい、コップの中はすでに空っぽなのです。
コップの中が空っぽになると、真っ暗闇の中にどんどん落ちていき、光も音も届かない絶望のどん底でたった一人になり、ただ両肩を抱えて震えながら泣くことしかできないのです。
そんな人にとって、「良いことに目を向けましょう」「未来について考えましょう」「今あるものに感謝しましょう」「あなたなら大丈夫、乗り越えられる」といった言葉は、もはや残酷でしかありません。
では、どうしたらいいのでしょう?
僕が同じようにコップの中が空っぽになった時には、心を疲れさせるすべてのことから逃げます。
逃げて逃げて逃げて、僕を苦しめるものから可能な限り離れます。また近しい人たちにSOSを出します。
そして「今をただ生きる」ことしかしません。食べる、寝る、休む。もし食べれない、眠れないなら、お薬を使います。
人間は不思議な生き物で、身体だけでなく心にも自己治癒力があります。
ずっと休んだまま月日が流れていくと、コップの中に一滴ずつゆっくりと水が溜まっていくのです。
生命力です。
コップの水が半分になる頃には、僕を苦しめていた事態が変化していたり、そのことへの僕の解釈が変わっていたりします。
このとき初めてポジティブに物事を見始めることができるのです。
相談してくれた彼女には、
「残念ながら友人の立場でできることは本当に少ないです。その友人は「今をただ生きる」時期なので、仕事をやめて実家で休むように伝えてください。時々連絡をしてあげて、SOSを逃さないようにしてください。」
と伝えました。
彼女はまた僕に笑みを浮かべて、「分かりました」と淀みのない安堵した眼差しで答えました。
人生は苦しみで満ちています。同時に人生は喜びで満ちています。
僕たちはこの「逆」が同時に存在している不思議な世界に生きているんですね。
最後に変なことを言いました(笑)