正直者の男と嘘つきな女

正直者の男と嘘つきな女

今日はある「正直者の男」と「嘘つきな女」のお話をします。

***

ある男は生まれながらにして正直者だったので、はじめはみんなに好かれるのだが、その関係が長続きすることはなかった。

男はあるとき、友人に「君は頭も悪いし顔もひどい。でも心が優しい。それが一番だよね」と正直に言ったところ、友人の顔はみるみる真っ赤になって目を丸くして無言のまま立ち去ってしまった。

それ以来、友人とは連絡がつかなくなった・・・

こんなことばかりが続き、気づけば男の周りには誰もいなくなり、正直者の男は天涯孤独になってしまった。

男はとうとう心底自分の正直さが嫌になり、「孤独になった自分は生きていても仕方がない」と自ら命を絶つためにビルの屋上へ登り、下から風が吹き上げるギリギリの際までやってきた。

よく晴れている。

遠くでひらひらと舞う鳥が世界を満喫しているようでうらやましい。男は「僕もこれから飛ぶよ。行き先は地獄だけど」と、微かな笑みに皮肉を込めた。

大きく深呼吸をしてから口を結んで顔を上げると、向かい側のビルの屋上に女が立っていた。

男は「あの女も死のうとしている」とすぐに分かった。なぜなら自分もそうだからだ。

女の心境が手に取るように理解できた自分に驚いた。変な共感があるもんだ。

この女は生まれながらにして嘘つきだった。ついつい嘘ばかりついてしまうので誰からも愛されなかった。

小学生のとき「私のお母さんは私を産んでから自殺した」と話していたのに、そのお母さんがニコニコしながら参観日にやってきたので、クラスメイトからひどく責められたことがあった。

気づけば女の周りには誰もいなくなり、嘘つきな女は天涯孤独になってしまった。

女はとうとう心底自分の嘘つき癖が嫌になり、「孤独になった自分は生きていても仕方がない」と自ら命を絶つためにビルの屋上へ登り、下から風が吹き上げるギリギリの際までやってきた。

よく晴れている。

正直者の男は手のひらを口の脇に添えて大きな声で女に言った。「死のうなんてバカげている。今すぐ死ぬのはやめるんだ」

すると女も負けじと大きな声で言った。「じゃあ、あんたはそこで何してんのよ?」

男は答えられなかった。正直に言って自分がバカげたことをしようとしているからだ。

嘘つきな女は男に言った。「死ねばすべてが終わるのよ。今すぐラクになれるわ」

すると男は言った。「そんなのは嘘だ。死んだって救われない。そうだろ?」

女は答えられなかった。自分が嘘をついていると分かっていたからだ。

男は正直だった。死んだって救われない。女は嘘つきだった。死んでもラクにはなれない。

二人はくるりと向きを変えてさっき自分で揃えた靴を履き、これからも自分らしく生きていこうと思った。

年月が過ぎ、正直者の男に最期が訪れようとしていた。

正直者の男は嘘つきな女に「最高の人生だった」と言って飛び立っていった。

正直者の男が人生の最期に初めて嘘をついたことを嘘つきな女だけが知っていた。

彼は彼女に約束していたのだ。

「僕は君の命が尽きるまで、ずっとそばで愛し続けるよ」

彼は正直だったが、それが嘘になってしまうなんて・・・

嘘つきな女は「バカな男ね」と、得意の嘘で涙をぬぐった。

今日もよく晴れている。

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